どこからどこまで
「ん?」

「…なんでもない」

「あ、そういえば!」


 自分の定位置に戻りながら思い出す、薫のことを。


「夏休み中、薫が泊まりに来たいって」

「薫が?薫だけで?」

「うん、たぶん」

「さなんとこに?」

「え?うん」


 ヨーグルトを完食し、一口サイズに切られたメロンに手をのばす。
 あたしのところ以外にどこに泊まるというのか。
 っていうか、なんでメロンなんてあるんだろ。貰い物かな。


「薫だけなら俺んとこ泊めた方がいいよ」

「え?なんで?」

「着替えとか色々、めんどくさくない?」


 "脱衣所なんてないんだし"とつけ加えられて納得する。一応ドアで仕切られているけど、タイミングの悪いときにうっかり開けてしまったら…。


「で、でも、翔ちゃん忙しいんじゃ…」

「8月の頭なら平気」

「うーん…」

「どうせなら3人でどっか行かない?」

「行きたい!!…けど、ほんとにだいじょぶ?」

「現実逃避くらいさせてよ」

「えぇ~?」


 心なしか遠い目をしているような気がする翔ちゃんを心配しつつも、3人で遊べるのが楽しみだなあ、と思ってしまう。


「本実習って泣きながら指導案?授業案?だっけ?書くんでしょ?」

「誰になに吹き込まれたかは知らないけど寝不足になるのは確かだよ」

「うわ…3年生になりたくない……」

「1年うちから心配してたら身がもたないよ。さななら平気だから」

「そうかなぁ…」

「兎に角さ、テスト明けの土日、空けといてよ。薫にも、」
「連絡しときまーす」

「よろしく」


 そうか、テストか。今月の下旬から来月の上旬にかけてテスト期間だった。忘れてた。
 単位とれるかなあ…特に語学。ちょっと不安。


「あ、どこ行きたいかとかも2人で考えといて」

「翔ちゃんは?」

「2人が行きたいとこでいいよ」

「…なんかお父さんみたい」

「じゃあ、さなが俺の娘か……」

「そんな嫌そうに言わなくても!」


 "冗談だよ"と笑って席を立とうとするものだから、"後片付けはあたしがやるの!"と慌ててとめる。
 翔ちゃんがまた笑った。


「いいのに、このくらい」

「ってか翔ちゃん、メロンは?1個も食べてない」

「いいや。さな、メロンすきでしょ?」

「すきだけど」

「じゃあ、どうぞ」

「ありがとー…」
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