どこからどこまで
「これ、沙苗ちゃんがつくったでしょ」


 ホットケーキを見た、薫の第一声。


 午後4時を少しまわった頃、翔ちゃんとあたしが自分たちの分のホットケーキを食べ終わった頃、インターホンが鳴った。

 母はまず、電話にでなかったあたしをやはり責めた。薫は部屋を見渡し"だいぶ物が増えたね"と一言。確かに増える一方で減らすことは難しい。


「なんで?」


 今はベッドの横にあるテーブルを4人で囲んでいる。母と薫が隣、翔ちゃんとあたしが隣。翔ちゃんは薫のおむかいで、あたしは母のおむかいだ。

 薫と母の目の前には、一般的などら焼きほどのサイズに焼かれたホットケーキが数枚。ホットケーキなんて誰が焼いても大差はないはずだ。


「だってなんか、雑。翔ちゃんだったらもっとキレイに焼くかなって」

「そんな文句言うくらいなら食べないでよね」

「食べるけど」


 なんだそりゃ、と気分を害するあたしに反して母はストレートティーをすすりながら笑っていた。翔ちゃんも、こらえる努力はしているようだが笑っていた。

 失礼しちゃうなあ、もう。


「ほんとお姉ちゃんは女の子とは思えないくらい雑なとこがねぇ…かおちゃんは色々と丁寧なんだけど」

「え~…?」


 グラスから口を離した母の小言に反論がしたいものの事実であるためそうはいかない。昔から"沙苗と薫は足して2で割ったらちょうどいいのに"と、よく言われていた。


「そんなので翔ちゃんに迷惑かけてなーい?ねぇ、翔ちゃん」


 耳が痛い。

 たとえ本当に迷惑に思っていたとしても翔ちゃんは、そんなことは絶対言わないんだろう。そう思いながら隣であぐらをかくいとこを見た。緊張しているようには見えないが、玄関先で挨拶をしたきりで、それ以来ほとんどしゃべっていない。

 どうしたんだろう。体調、悪いとか?だいじょぶかな。

 2人が来る前も、なんだか落ち着きがなかった。


「迷惑とか、思ったことないかな」


 あたしの心配をよそに翔ちゃんはあたしを一瞥して、そう言った。目があったのは1秒あるかないか。


「寧ろ助かってるくらいで。さすが、菜奈さんの子」


 上手い。

 心の中で拍手をする。

 目があったはほんの一瞬なのに、ほめ言葉もあいまってなんだか照れてしまう。本心かどうかなんてわからない、きっとありふれたお世辞なのに。
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