どこからどこまで
「そんな人事みたいに…嫌なら断ったっていいんじゃない?」

「やじゃないよー?別に。すきだもん、カラオケ」

「そ、ならいいけど」


 チャンネルをカチャカチャと意味もなく変えている間に、手招きとパンの焼けた臭い。配膳はあたしの担当だ。


「いただきまーす」

「いただきます」


 パチッと手を合わせて朝食開始。

 翔ちゃんは料理担当、あたしはその他の家事担当。あたしたちはお互いのできない事を補い合って生活している。

 翔ちゃんは朝が弱くて、できないわけではないけど家事を後回しにしがちで少しズボラなところがある。料理は上手いけど。

 一方あたしは朝に強くて、料理はまったくできないというかする気もなくて、だけどまあ家事はそこそこすきなわけで。

 そんなこんなで、毎朝こんな感じだ。

 平日は昼食以外、ほとんど翔ちゃんがつくってくれて、休日もほとんど3食翔ちゃんの手料理を翔ちゃんの部屋で食べる。

 ちなみに食費は割り勘。高熱費も浮いて助かるし、本当はあたしが全額もつつもりだったのに翔ちゃんがゆるしてくれなかった。おかげでうちの冷蔵庫の中には飲み物とお菓子くらいしかない。


「ごちそうさま」


 食べ終わるのは、いつも翔ちゃんが先。あたしはテレビを見ながらのんびり食べて洗いものを済ませてから、これまたのんびり大学に向かう。大学までは徒歩で約10分だ。


「じゃあ戸締まりよろしく。あ、あとテレビ消し忘れないように」

「はーい。いってらっしゃい」

「あ、さな、」


 ドアの外からのぞくみたいに翔ちゃんの 顔が見える。あたしは目玉焼きの半熟具合に満足しながら気の抜けた返事をした。


「んー、なにー?」

「帰りあんまり遅くなるなら連絡して」


「わかったー。ラインとばすー」

「じゃあ、気をつけて」

「ありがとー、翔ちゃんもね~」


 あ、"気をつけて"も日課かな。

 コンソメスープを飲みながら忘れないうちにテレビを消した。

 うん、いつもの朝だ。
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