どこからどこまで
「まあでもそれって、逃げてるだけなんだよね」


 しっかりと合った目線を先にそらしたのは俺の方が早かった。


「でさ、逃げてるのは翔ちゃんもいっしょだと思うんだ。俺は」


 "ごめん、また生意気言うよ?"と申し訳なさそうに笑った。

 俺は何も言えない。


「なんだかんだ言っても一番ネックなのって、"いとこだから"でしょ?」


 認めたくない。


「…誰かに、何か言われたの?例えばだけど、"いとこをすきになるなんておかしい"、とか……」


 図星だ。


「もしかしたら、だけど。これは勝手な俺の想像だけど………せーちゃんに…?」


"せーちゃん"


 懐かしい響きだと感じるのと同時に、その名前がでてくるとは少しも思わず、面食らった。

 今は簡単に会える距離にはいないそいつのことなど、忘れていると思っていた。薫が中学にあがるよりも前に、そいつはいなくなっていたからだ。

 俺でさえ頭の片隅に追いやっていた。意図的に。


"お前さ、沙苗のこと、すきなわけ?"

"それって、おかしくね?"

"だって、いとこじゃん"

"妹みたいなもんなのに"


 フラッシュバック。

 だめだ、動揺してる。

 思い出したくなんかないのに。


「………俺、薫がうらやましいんだ」

「え?」

「俺も沙苗のきょうだいがよかった」

「なんで急にそんな…」

「沙苗が妹だったらよかったな、って」


 俺が沙苗と薫の兄だったなら。


「そうだったら、こんなに悩まなかっただろうな、ってさ」

「翔ちゃん…」

「いとこすきになるのはおかしいんだって言われて、"ああ、だめなんだな"って思うのと同じくらいに、"いとこじゃなかったらこんなにすきになれなかった"って思ってる」


 兄妹のように過ごした時間。そう思い込もうともした数年間。切り離して考えられない。いとこだからこそ、いとことして過ごしてきたからこそ、こんなにもすきになってしまった。


「………"いとこだからだめ"とか、そんなことないよ。そんなのやだもん、俺」


 てっきり反応に困らせてしまうだろうと思っていた可愛いもうひとりのいとこは、なんと頬杖をついて拗ねていたのだった。

 まったく、いい意味で裏切ってくれる。
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