どこからどこまで
「な、なに」


 こんな目で見られてスルーできるほど、あたしは器用じゃない。薫はきっと、それをわかってやっている。


「別に。"いつも"を知ってるんだなあって思って」

「………」


 かまをかけられた。何も言えない。


「そんな深刻そうな顔して黙んないでよ。からかっただけなのに」

「そうやって姉をばかにして~…」

「ばかにしてるわけじゃないんだけどな」


 ボソッと、納得がいかないといった様子で呟いた薫は、それ以上追及してくることはなかった。

 助かった………のかな?


「シーツとか、もう洗っちゃう?」

「え?あぁ、えと…ちょっと待って」


 布団を畳むために屈んだ薫が背中を向けたまま訊いてきた。

 さっきまで話は本当に終わりらしい。ホッと胸をなで下ろしながら洗濯機を確認しに向かった。


「あれ、まわってる…」


 入ってくるときには気にとめていなかった洗濯機は脱水中だった。

 もしかしたら少し前に起きて、洗濯物を洗濯機に放りこんでスイッチを押すくらいのことはしたらしい。

 朝に弱いことに定評がある翔ちゃんがひとりで起きたのか。毎朝あたしが起こしているだけあって、なんだか感慨深い。

 洗いものは夕べ、薫がやってくれていた。あとは洗濯物を干すくらいだ。

 なんだ、案外やること少ないなあ。


「薫ー、とりあえず畳んどいてー。シーツとか諸々」

「わかったー」


 少しだけ物足りなさを感じながら冷蔵庫の中身を確認する。

 夕食はつくろうとは思っていたが、この際だ。翔ちゃんが起きる前に昼食もあたしがつくっておこう。
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