Don't forget “my memory…”
リビングのような部屋の中、1人の男性が、黒いソファーに腰を掛け、何かを考えているのか、ゆっくりと珈琲の入ったカップを口に運んでいた。



カップの端を口元に添えたまま、青い瞳を時計へと持って行く。


小針は8の数字を示し、長針は12の数字を通り過ぎている。



いつもなら、もう既に起きている時間…

なのに今、彼の目の前にあるはずの、凛々しい笑顔の彼女の姿はない…

ただ、彼女の姿がないというだけなのに、どこか落ち着かず、寂しい気持ちになる…

それだけ、彼女の存在が、彼の中では大きいのだ…




 「体調でも、悪いんだろうか…」


そわそわする気持ちの中、再び時計へと目をやる…

それ程時間は経っていない…

こんなに時間が経過するのが遅いなんて感じたのは、初めてだった…



空になったカップを机に置くと、彼は無言で立ち上がる。

そして、奥の部屋へと向かって行った。




ある一室の部屋の前に来ると、真っ白な扉を優しくノックする。



       コンコン…


 「……」


暫く待つが、中から返事はない…

いつもなら、ノックの音に、可愛らしいあの声で、返事が返ってくるのに…


この扉を開け、綺麗な顔を覗かせるのに…


なのに、あの可愛らしい声も、綺麗な顔も、全て失われたかのように、聞こえてこない…この瞳に、映らない……



何だろう…

何か嫌な感じがする…

何か胸がそわそわする…



一枚の扉の向こうから感じる異様な雰囲気…

部屋から滲み出たように漂う、暗く、重い空気…


思い出したくもない記憶が蘇りそうで…

再び彼女の傷つく姿が目に浮かんで…

彼は必死に扉を叩く…



 「カリン……?カリン……?」

何度名を呼ぼうと、何度扉を叩こうと、返事すらなく、一向に扉が開く様子もない…


胸騒ぎが治まらない…

嫌な汗が背を伝う…



心配になり、ドアノブへと手を伸ばす…

すると…



       ガチャ…


手が触れる前に、扉が開かれた…

そして、中から現れた人物…

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