恋愛ターミナル

「な? 結構気持ちいーだろ、ここ」


あのあと、だんだんと車通りが少なくなっていく坂道を、登りきったところで平岡さんは自転車を止めた。
山と比べたら全然高さはないけれど、それでも、今走ってきたであろう道が遠くに見えた。

ガードレールを簡単に跨ぐ姿を見て、自分もやってみたら結構大変で。
……平岡さんて、あの作業服の中の足はずいぶん長いんだ。なんて思ったりした。

で、そこを越えた草の上に腰をおろして、小さくなった人や家や車を眺めてサンドイッチを口に入れる。

高い場所だからか風が吹いて、心地よく肌を撫でていく。
それに、忙しなく聞こえる街の音も遠いから、落ち着く感じもする。


「確かに。気持ちいい場所かも」
「なんか、仕事柄くらーいせまーいとこにばっかいる気がしてさ。こんな広い空の下で、全部を見下ろしてさ。かなり気分転換になる」


箸を止め、なんだか解放的な顔をしてそう話す平岡さんから目が離せなかった。

その私の視線に気がついたのか。
ゆっくりと私の方を向いて、彼もじっと私を見つめている気がする。


――――あれ? なんか、緊張してない? 私。


自分の心に疑問を感じていたら、スッと平岡さんの仕事で少し汚れた手が私へと近づいてきた。


「――マヨ。綺麗な顔してんのに、ついてるぞ」
「え……。あ」


指摘されて、自分で唇の横を指で触れてみる。
なんの感触もしないと思った矢先、伸び掛けていた平岡さんの手が、そのまま私の触れた逆の口元を拭った。


「はははっ! こっちだって!」


――男の人に触れられるのなんて、初めてじゃない。
そんなの、26にもなれば、数えきれないくらいある。

なのに、なんで、こんなに落ち着かないんだろう?




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