壁越しのアルカロイド
氷結の王子様は若干潔癖症だ。
男子には珍しく常にハンカチ、ティッシュ、おまけにアルコールウェットティッシュ、携帯ゴミ箱まで持ち歩いている。
他人とは必要以上に触れ合わない。
ひょいっと誰かが肩に触れれば、さり気なくハンカチでその場所を叩き綺麗にする。
給食に出るプラスチック製の箸も綺麗にアルコール除菌してから使用する。
朝、自分の席に座る前に椅子と机をサラッと拭く。
何気ない動きだが、何人かの人間を引かせる程度には潔癖気味なのだった。
しかし、その行為も致し方ないことだと梨奈は考えている。
それは小学校の時。
ある程度梨奈から独り立ちして、クラスの他の子達とも友好関係を築き始めた翔少年を、ある出来事が襲う。
梨奈はこっそりそれを“ハーモニカ舐め舐め事件”と呼んでいる。
…文字通り、舐められていたのだ。
いや、正確にはただ間接キスをされていただけなのだが、…いや、やっぱり結構ぶちゅぅっとされていた訳だが、本人にはとにかくベロベロと舐められていたぐらいの衝撃があったようだった。
その当時、おませな女子の間でとにかく好きな男子の持ち物にこっそり触れるというのが流行っていたらしく、翔はかなりの女子からターゲットにされていた。