壁越しのアルカロイド


「ちょっと、梨奈聞いてるの?」

「はいー聞いておりますとも1から10までバッチリ聞いておりますともーー。」

梨奈は便座に座りながらシャキリと背筋を改めて伸ばし嘘八百で即答した。


今はこの目の前のアイボリー色の壁がありがたかった。

彼のあの威嚇する猫のような瞳を見なくて済む。

「(はぁぁ…)」

梨奈は小さな小さなため息をついた。


あんな可愛かった天使は今じゃ高校で氷結の王子様なんて呼ばれている。

もはや“氷”ですらない。“氷結”だ。

口癖は「…はっ?」である。

おもわず振り返ってしまうほど可愛い子からの告白も「…で?」で返す。

一部からは氷結の悪魔とも呼ばれていたりする。

天使から最終的には悪魔にまでのし上がったこのお方が、

梨奈の好きな人である。



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