飛ばない蝶は、花束の中に


“雅”は、ここに来てどのくらい経つんだろう。

私の存在は、知らなかったみたいだし、お兄ちゃんは自分の事を何でも話すほどには、心を許してないのかも知れない。



“タカノ”の彼女だと聞いたって、全然安心できないのは、どうして?


どうしてあの子は、“まだひとりで外に出してやれない”の?



いちごミルク色の花の名前を、思い出しそうで、思い出せない。

色鉛筆とスケッチブックは、お兄ちゃんが持って行っちゃったけど、机に並んだ植物図鑑と、ブーケの写真集、料理の本は。

“雅”が何を好きか、はっきりと示していた。



いちごミルク色の花の名前。

明日、“雅”に訊いてみよう。



それから、向日葵、踏みつけてごめんね、って。


謝ろう。




そこまで考えたところで、私を襲う睡魔は、完全に私を呑み込んだ。




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