暗黒の頂の向こうへ
第八章 決意と戸惑い
第二次世界大戦末期。 西暦1945年8月9日10時 。
原子爆弾、ファットマンを搭載したB29爆撃機ボックスカーは、第一目標である福岡県小倉市が厚い雲で覆われていたため、目標を長崎に変更し、目指していた。
テログループは歴史の変更を企み、最重要任務を決行しようとしていた。
 「時は来た。 今の閉ざされた世界を変える為に、我々は長崎の原爆を奪い、アメリカ艦隊を殲滅する。 メンバー全員の魂の力で、この偉業を必ず成功させる。 明日は、今までとは違う朝を迎えよう。
健闘を祈る」
その頃時空警察は、テニアン島を飛び立ち長崎に向かうB29爆撃機ボックスカーの警護監視の為に、姿を消しながら併走飛行をしていた。
 「こちら監視船。 長崎ポイントに、複数の磁気反応あり。 応援を要請する」
 「こちら本部、応援要請を受けた。 待機第一、第四チームは、緊急スクランブル発進。 ダイブアウトポイントはB29爆撃機ボックスカー。 現在監視チームが応戦中」
「了解。 こちら第四チーム。 ノア、出動します。」
第一チームのリーダー、グレンがチーム員に気合いを入れる。
「絶対に第四チームに遅れをとるな。 イエローは、俺たちアメリカ人が削除、殲滅する」
 二機の時空移動船が重なるように成層圏を高速移動し、爆音を残し時空空間へ傾れ込んだ。
マリアの操縦テクニックは天才的であった。 自分の手足のように限界ギリギリで船体を操り、第一チームを引き離す。
 「もっと速度を上げろ、引き離されている。 飛ばせー……」
時空空間での速度差は歴然であり、第一チームは遅れをとった。
「守、隆一。 ダイブポイント確認」
その瞬間二人は暗黒の空間にダイブし、超高速で移動する。
B29の機体に直接ダイブアウトし、テログループと交戦中の監視チームに加勢した。
狭いB29の機体の中で、電子サーベルの火花が散る。 剣さばきの達人である守と隆一は、相手の攻撃を見切り、テログループの間を流れるようにすり抜ける。 最小限の動きで電子手錠を使い、拘束していく。
時空警察とテログループの戦いは、音速の弾丸を避けるほど動きが速い為に、電子銃の使用を避け、電子サーベルでの戦闘になっていた。 守と隆一は、如何なる犯罪者の命も奪うことはしなかった。
そこへ、遅れをとった第一チームのグレンがB29の機内に乗り込んできた。 テログループと、守と隆一の間に強引に割り込み、無造作にテログループを次々と切り捨てていく。
すると、テログループの1人の光学マスクが吹き飛び、日本人である素顔が現れた。
その人物は、素顔をさらしても微動だにしない。 すでに自分の命など、目的の為に捨てていた。
守と隆一は、躊躇し戸惑いを隠せない。
 「日本人にしては良い度胸だ。 だが、お前らに意味はない」
豪腕のグレンは、機内の空気をも切り裂く勢いで、電子サーベルを振り下ろす。 衝撃音と共に、テログループのメンバーは倒れていく。
取り憑かれたように、まだ息のある人間に止めを刺し、顔を踏みつけた。 「お前ら日本人は、使い物にならない。 地球上から全て、削除してやる」 不適な笑みを浮かべ、守と隆一を睨み付けた。
守と隆一は、日本人の目の奥に心の叫びを悟り、魂が痛んだ。 日本の上空で、同じ血を引く民族が、お互いの望む未来の為に、命がけの戦いを挑む事の事実に、二人の疑問はしだいに心の中で大きくなっていった。 「俺たちのしている事が正しいのか……」 時空警察の立場、日本人としての叫び、その迷いが二人の剣の動きを止めていた。
緊急連絡で駆け付けた時空警察により、B29は、制圧された。
テログループは計画の失敗を知り、メンバーの存在そのものを削除し、消してゆく。 時空警察に足跡を悟られる前に。
その光景を見守る守と隆一は、敵とはいえ志半ばで死んでいくテログループの姿を寂しそうに見送った。
歴史の捻れ、修復、犯罪調査を終えた第一チームと第四チームは、それぞれの思いを胸に、テラへと帰投して行った。
時空警察本部内での状況報告会議

捜査官報告。
「先日の長崎ポイントでのテロ行為は、第一チームの活躍により未然に防ぐ事ができました。
しかし第四チームの二人、神村守、古代隆一は、テログループと交戦中に精神的な問題、ヒューマンエラーが発生したと報告が入りました。 よって第四チームを、日本人テログループ捜査から外す事を要請致します」
議長が重い腰を上げて話し出した。
「我々時空警察は歴史の番人である。 いかなる理由があろうと、歴史の流れを変える事を防がなければならない。 引き続きテログループの監視、メンバーの洗い出しに全力を上げてほしい。 第四チームの件は後日回答を出す。 以上」

時空警察は、度重なる日本人テログループの時空不法進入に手を焼いていた。 総力をあげて様々な時代に捜査員を配備したが、監視ポイントの多さゆえ、歴史とテラ政府の存在を守る為には、明らかに人員不足であった。

 大柄の男が深々と帽子をかぶり、テラの地下都市最下層にあるスラム街を歩いている。 ジメジメとした、換気の悪い澱んだ空気が立ちこめている。 薬でふらつく娼婦が声をかけた。 「そこの旦那、いい男だね。 私と遊ばない。 安くしとくからさ・・・・・・」
 「日本人のゴミと、遊ぶ気は無い。 死にたくなかったら、離れろ」 その男は、日本人を毛嫌いする時空警察官、グレン・オースチンであった。
 暗く水滴がたれる階段を下りて行く。 そこは誰も寄り付く事のない、薄汚い酒場であった。 ロウソクの薄明かりの向こうに、煙草を銜えた男が座っている。
 グレンは挨拶も交わさず無造作に座り、口を開いた。 「何の用だ」
< 14 / 30 >

この作品をシェア

pagetop