暗黒の頂の向こうへ
第四章 目的の行方
太平洋戦後の日本は復興を終え、技術革新を掲げ、経済大国の道を歩み始めた。
世界初の高速鉄道である新幹線が、西暦1964年に開業。
同年、東京オリンピックが開催される。
人々は日本人であることに、自信を深め歓喜の声をあげた。

混雑する東京駅に、光学迷彩を解いた男達が集まる。
新幹線車両内で日本人テログループ 、XYZの幹部会合が行われる為に。
XYZのリーダーが、通信回線で叫ぶ。
「この時代に来ると、私は全身にパワーが漲る。 日本人の古き良き時代だ。 我々も、必ず返り咲く……。
再び日本民族のプライドを取り戻す為に、政府を打倒する為に。
我々の作戦は、日本本土に落ちた原爆を、アメリカ占領下にある沖縄のアメリカ艦隊に落とす事である。
なぜなら我々日本人は、世界で唯一原爆の犠牲になった悲しき民族で
あり、広島長崎と2度の屈辱的な歴史の傍観者である。
我々の大義名分は、腐った歴史を緑豊かな世界に戻し、日本人の誇りを取り戻す事である。
それには世界で初めて原爆を開発し、使用したアメリカ人を、原爆の犠牲者にしなければ時代は動かない。 アメリカが作った原爆を、アメリカ人の頭上に落とさなければ、始まらない。 加害者であり、被害者でなければ、地球に未来はない。 この考えこそが、時代を変える要になる。 これは神に与えられた日本人の宿命であり、この大儀をなせるのは、日本人でなければならない。 そして我々にしかできないのである」

XYZは、日本人で構成された、政府に反発する武装テログループであった。 テログループのリーダーは思考する。
広島の原爆投下はアメリカ人の罪と考え、長崎の原爆を、沖縄駐留のアメリカ艦隊に落とし、アメリカ人の罰と自覚させる。 傲慢な力の誇示が、無意味だと気付かせる為に。

 テログループのメンバーは会合を終え、それぞれが足跡を残さないよう、未来への希望を胸に秘め、星空と共に時空の闇へと消えて行った。
その頃、光学迷彩を施した時空移動船が、時空空間を進んでいた。 本来、大型の移動船は光学迷彩を許されていない。 何故なら時空空間は狭く不安定であるゆえ、移動船同士が衝突するのを避ける為の重要な規則であった。 その規則を破り、時空進入の報告をしない極秘行動中の麻薬取締局の船であった。
 その船は先日、守と隆一がマフィアを検挙した場所、メキシコ・フアレスにダイブアウトする。
 光学迷彩の船が、ゆっくりと闇夜を進む。 時空警察に悟られないように。 そして、一人の男が雑踏の中に消えて行った。
 繁華街の中に、眩しく光るネオンサインが犇く。 麻薬の売人や、娼婦がしつこく声をかける。 その声を撥ね付け、大音量の音楽が響くクラブへと入って行った。 その人物は麻薬捜査官、ロイ・ヘンドリックである。
 踊り狂う若者をかき分け、奥へと進む。 薄暗い一番端の席に、目当ての人物が待っていた。 
 「これが、未来だ」
 「ふふふ……。 待ちかねたぞ 貴様の欲しい物は何でも持って行け。 どう使おうが、貴様の自由だ……」
 お互いの利害関係は明白であった。 麻薬組織の欲しい物は、これから先の未来の情報、それはメキシコ警察、麻薬組織の反対勢力、ライバル組織、それぞれ重要人物の名前、顔写真、未来の出来事全てであった。
 ロイの要求は未来世界のマフィアの要求であり、ヘロイン、武器、娼婦である。 過去と未来を繋ぐ裏社会の犯罪ブローカーで、麻薬捜査官の器を利用し、私服を肥やすマフィアの幹部であった。
話を付けたロイは、テラの闇社会を牛耳る喜びで、笑いを堪え急ぐようにクラブを後にした。 そして不気味に、灰色の空へと消えて行った。
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