君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)

なんでだろう。


夜の国道を、また新庄さんの車で走っている。

もう、そういう運命なんだろうか。


改めて自分を見下ろせば、ストッキングは破れて穴だらけ、コートも汚れて灰色になっている。

手首がちくりと痛むので見てみたら、ブレスレットがいつの間にかどこかへ行っていた。

引きちぎれるときにこすれたらしく、小さな傷になっている。


最後の蹴りをとっさに受けとめた左手の甲は、感覚がなくてまだ満足に動かせない。

明日になったら内出血は必至だろう。

震える左手を、右手で覆う。


さんざんだ。



「大丈夫か」



車に乗ってから初めて、新庄さんが口を開いた。

わかりません、と正直に言うと、ため息をつかれた。



「そうまでする必要、ないだろう」



なんだ、その言い方…!

よけいなことを、と言われた気がして、悲しくて悔しくて、思わず睨みつける。


それに気づいたのか、新庄さんがちらっとこちらに視線をやった。

そのまま車を左車線に入れて、ハザードを出して急減速し、路肩に停める。

ギアをニュートラルに入れると、ふうっと息を吐いて私を見た。


口を開きかけたと思ったら、ふいに私の口元に手を伸ばしてくる。

身を引く間もなく唇を指で拭われた。


切ったところから、また血が滲んでいたらしい。

新庄さんの指先が少しだけ赤く染まっている。

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