君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)
それを見ながら、彼がつぶやいた。



「俺のために、怪我なんかするなってことだ」



私のことを案じて言ってくれているのはわかる。

だけど私には、新庄さんに関わる権利がないと言われたように思えて、痛い。


新庄さんが、ステアリングに片手を置いた。



「こいつを、かばってくれたんだな」



穏やかな声に泣きそうになった。

久しぶりに、新庄さんと一緒にいる。

この瞬間を、自分がどれだけ恋しく思っていたか、今さらながら実感した。



「煙草、吸ってもいいか」



もちろん、と応えると、新庄さんは窓を薄く開けて、いつもの仕草で一本くわえて火をつけた。



「…堀越さんだったんですね」



吹き込む風に煽られて、髪が顔にかかるのを押さえながら言う。

新庄さんは、うん、ともああ、ともつかない声を出して、煙草をくわえたままだ。


なにを考えているんだろう。

もう腹を立てては、いないようだけど。



「なんで、あんなことしたんだろうな」

「新庄さんのこと、好きだからでしょう」



なにを今さら、と思いながら応えると、新庄さんは意外なことを聞いたとでもいうようにこちらを見た。



「そういうもんか?」

「私は、しないですけど…」



ていうか、私に聞かないでよ。

身もフタもないやりとりに、思わずふたりとも沈黙する。

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