君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)
「なんか疲れてない、大塚(おおつか)さん?」
「わかります?」
意気込んでデスクに向かってみたものの、あっさり見抜かれた。
バッグをサイドキャビネットに置き、大きく息をつきながら椅子に身を沈める。
口をついて出る声には、我ながら疲れが滲んでいた。
「このところの終電続きで、ついに寝過ごしました」
「よく間に合ったね」
まったくだ、とひとりごちる。
ファンデがいっこうに乗らなくてよけい時間がかかり、足がむくんで靴が入らず、さらに時間がかかり。
26歳って、そういう歳。
「プロモーションイベント続きのシーズンだもんね、俺も来週あたりから激務の予感」
隣席の高木(たかぎ)さんが、言いながら伸びをする。
私のひとつ上で、人懐こく明るい先輩だ。
「ですよねえ」
はあ、とふたりのため息が重なった。
デスクのPCを起動してメーラーを開く。
日付が変わるまでオフィスにいたので、新着のメールはないだろうと思っていたのに、深夜の間にクライアントから数件の連絡が入っていた。
思わず、げっと声が漏れる。