君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)
営業員たちがめいめい外出しようとする頃、オフィスのドアの開く音がした。
チームの空気が、ぴりっと緊張したのを感じる。
「おはよう」
低めの通る声と共に、朝一で社外の打ち合わせを済ませてきたらしいチーフが出社してきた。
新庄貴志(しんじょうたかし)チーフ。
私たちメディアチームのまとめ役で、29歳という珍しい若さでその任についた人だ。
ダークグレーのスーツにストライプのシャツという、シンプルでスタンダードな装いが、均整のとれた身体によく似合う。
フロアに入るなり、彼の背広の胸ポケットで携帯が光った。
それを耳にあてて足早に自席へ向かう彼に、メンバーが口々に挨拶をする。
軽く手を上げて応える姿は、いかにもほどよい自信に満ちていて、見ているこちらが気持ちよくなるほど。
彼がうしろを通った時、ふっと煙草と香水が香った。
実にかっこいい人。
仕事好きなメンツの集まるこの部内でも群を抜いた働き屋で、優しいかと言うととそうでもない気がするのに、面倒見はよく、上と渡りあうのもうまい。
チームも取引先も、彼への信頼は厚い。
だけれど。