君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)

「有無を言わさぬってのは、まさしくああいうのを言うんだね、はい乾杯」

「なんとなく想像つく。乾杯」



なにに乾杯しているのかわからないままグラスを合わせ、冷たいビールを喉に流し込む。

一気に現実感も体内に入ってきた気がして、ようやく人心地ついた。



「なんか変なのにつきまとわれてるって?」

「そうなの」

「なんでそんな大事なこと、あたしより先に新庄さんが知ってんのよ」

「ごめん、なりゆきで。近々言おうと思ってたんだけど、私も最近まで半信半疑で」



彩らしい腹の立て方に、つい必死に謝罪してしまう。



「来るの遅れて、ごめんね」



彩がすまなそうに顔を曇らせた。



「すぐに出ようとしたんだけど、きっと寝てるから、むしろ夜の方がいいって新庄さんに言われて」



そこでなにか思い出したらしく、いけね、と携帯を取り出した。



「あんたの様子を確認したら、連絡くれって言われてたの……あ、雑誌局の石本です、こんばんは」



彩の携帯から、低い声が漏れ聞こえる。



「はい、きちんと寝てました。私も今日はこのまま泊まりますんで、ご心配なく」



また低い声。



「伝えます。おやすみなさい」



電話を切って、私を見る。



「というわけだから泊めてね。あとあんたに、ゆっくり休めって、伝言」

「何度も聞いた、それ」

「あ、そうなの? こんな飲ませたら、怒られるかなー」


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