君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)
「渋谷に実家を持つ、お嬢様ですよ」
…お嬢様にもいろいろいるんだな、という新庄さんのつぶやきが聞こえる。
『勝手に事情を話して、悪かった』
「どうして新庄さんが先に知ってるんだって、怒られました」
『だよなあ』
電話の向こうで、笑っているのがわかる。
『元気そうで安心した。今後の休み、どうするか決めたら俺か課長に連絡してくれ』
「はい、ありがとうございます」
ごく短いやりとりで通話は終わった。
そこを狙ったように、彩が戻ってくる。
「様子うかがいの電話? なんだかんだ愛されてんね」
「あんた、新庄さんに向かってキレたんだってね」
彩の冷やかしは聞き流した。
「なに、チクったの、あの男」
「おもしろいって言ってたよ」
「ありがとうって言っといて」
彩は再び、テーブルの上の賃貸情報をがさがさやりだす。
「彩と新庄さんって、結構気が合うと思うんだけど」
ふと口にしたら、あからさまに嫌そうな顔をされた。
「鬼と合うって、じゃあ、あたしはなんだってのよ?」
女王様かな、と言おうとしたけれど、やめておいた。