君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)
「感謝してもしきれないなあ」
「や、そのへんでいいって、照れるから」
「あんたじゃなくて、いやあんたにもしてるけど」
ゆうべ彼が彩をよこしてくれなかったら、私はどうなっていただろう。
「やっぱこの部屋いいよ。日あたりって、どのくらい重視する人?」
彩が物件のひとつを見せようとしたとき、振動を感じた。
バッグから携帯を取り出して、固まる。
【着信:新庄貴志】
画面を覗き込んだ彩は、ちらっと私の顔を確認すると、トイレ、と席をはずした。
『よく休んだか』
緊張しながら出たものの、すっかり耳になじんだ声を聞くと、安心した。
宣言通りにしているのなら、彼も休みのはずだ。
今、家なのかな。
自宅でくつろぐ新庄さんを想像しようとするけれど、なにも浮かんでこない。
朝まで飲んでましたと申告したらなにを言われるかわからないので、そこは濁すことにした。
「あの、ありがとうございました。石本のことも」
『あの人、おもしろいな』
はあ、と応えると、新庄さんが続ける。
『うちの大塚になにしてくれたんですかって、すごい剣幕で詰め寄られた』
「すみません……」
彩の奴、都合の悪い話は省いたな…。
『いや、たいしたタンカだったから感心した。彼女は何者なんだ?』
彩もたいがい上から目線だけれど、そのさらに上を行く高みからの目線て、すごく新鮮だ。
このふたり、案外息が合うかもしれない。