君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)
10月の最終日。
三日連続で取得した代休の最後の日、私は新庄さんと待ち合わせた場所に向かっていた。
この三日間は顔を合わせずに済むと思ってたのに。
くそー、と課長に毒づく。
昨日、課長から電話がかかってきたのは、会社が昼休みに入る頃だった。
私は直前までだらだらと寝ていて、ようやく起きだして洗濯をしているところだった。
『代休中、ほんと申し訳ないんだけど、頼みたいことがあってさ』
「はい、なんでしょう?」
家でもできる資料作成とか、データ集めかなと思ったら、全然違った。
『明日、新庄くんと行ってきてほしいところがあって』
「え?」
行ってきてほしいところとは、本間さんたちが出展しているイベント会場だった。
別の代理店が取り扱っているイベントで、要するに敵情視察だ。
本間さんの会社では、広告宣伝に複数の代理店を使っている。
どこの代理店も自分たちのシェアを伸ばしたいわけで、担当でない案件も、こうして機会があれば見学に行くのは当然だった。
だからって、なにもこのタイミングで…。
『僕が行くはずだったんだけど、月末だから身体が空かなくて。新庄くんもほんとは明日、代休なんだけどね』
「そうですよね」
『相談したら、ぜひ大塚さんも同行させたいって言うからさ』
新庄さんが、私を。
うれしいような、自分がひとりで空回っているのを実感させられたような、複雑な気分だ。