君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)
というわけで私は今、待ち合わせ場所である私鉄の駅にいる。

いかにも港町らしく、人工的なカモメの鳴き声が構内に流れている。

新庄さんの姿を探して、行きかう人をチェックしていたつもりだったけれど、近づいてきた人影を、私は見落とした。



「悪かったな、休み中に」



一瞬、誰だかわからなかった。

私服だったからだ。



「あっ…? あ、おはようございます」



いきなり調子が狂って、しどろもどろになる。


私服なのは当然だ。

一般客としてイベントに行くんだから、スタッフでもないのにスーツでうろうろしていたら、お客様になにかと思われる。


仕事感まる出しで行くのもよくない。

運営している代理店に失礼だし、なにより嫌味だ。


クライアントの体質や部署ごとの考えにもよるけれど、うちのチームの場合、こういう場合には私服で行くのが常だった。

自分だってそれを考慮してカジュアルにしたのに、新庄さんのことは頭からすっぽ抜けていた。



「おはようって時間じゃないだろ」

「はあ」



もうとっくに午後だ。

ぼんやりしていると、行くぞ、と新庄さんが歩きはじめて、慌てて後を追った。


会場までは歩いて10分と少し。

絶好のイベント日和である今日は、外を歩くのにちょうどいい。


並んで歩く新庄さんのデニム姿が珍しくて、ついじろじろ見てしまう。

スーツ以外の服、持ってたんだ、とバカな考えが浮かんだ。

デニム、白のインナー、黒のジャケットというオーソドックスな組み合わせだけど、スーツと同様やたらと似合う。

身体ができていると、なにを着ても様になるなあと感心する。

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