カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―


「なんか少し変わったな。オトコの影響か?」


大手チェーン店の居酒屋に来た私たちは、6つ並ぶボックス席の一席に落ち着いていた。

お互いにビールを口に運ぶと、神宮寺さんの第一声がそれだった。


「そういう相手はいないですから。今までずっと長かった髪を短くしたからじゃないですか?」


まだ8分目まで入っているジョッキを置いて、軽くなった髪をかきあげる。
神宮寺さんはネクタイを緩めると、胸ポケットから煙草を取り出し、指に挟めて上下に動かしながら言った。


「確かに。さっき後ろ姿で判断するの、不安だったな。あ、付き合ってるヤツがいなくて、髪を切るって……」
「別に失恋したとかそういうんじゃないですよ」
「あ、そう……」
「失恋なんて、する過程までも遠のいてるくらいですから」
「そんなに美人なのになぁ」


神宮司さんの言葉は、お世辞じゃなくて本心から言ってくれてるものだとわかっている。
『美人』とか、神宮司さんだけじゃなくて、もうずっと言われ続けてるし、自分でもかなり努力してる節もある。

だから人から「美人だね」って言われたら、「そんなことないです」と言わずに「ありがとう」と受け取るのが私のスタンス。


「美人で仕事も出来て、モテない方がおかしいもんな」


ついでに言うと、学生時代からスポーツや勉強も人一倍頑張って来たし、そのまま社会人になっても仕事も頑張って来た。

人より秀でているって、やっぱり優越感を感じるし、それに容姿だけだって思われるのはしゃくだったから。

そんなふうに生きてきたのは、生まれてからずっと――――というわけじゃない。


「それより、商品企画部はどうですか?」


手入れの行き届いた、控え目なネイルをした指先を、白い小鉢に盛られた枝豆に伸ばしながら私は言った。
神宮司さんは、その殻入れをすっと私の方に差し出しながら、嬉しそうな顔をして答える。


「入社してから、商品企画部希望でもあったし、充実してるよ」
「今はどんなことしてるんです?」
「個人的にいろいろ新商品なんか考えたり。あ、あと今、あるデザイナーに仕事を依頼しようとしていて。阿部も知ってると思うけど」
「へぇ?」


そこまで話して、神宮司さんはようやく煙草に火を点けた。

一度それを吸い込み、私の方へ煙がこないように横向きに吐き出すと、煙草を持つ手で頬づえついてニヤリと笑って続けた。


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