カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―

「……あなたのような方がいらっしゃるから、営業担当も苦渋してるんですね……」
「営業……?」
「あ! すみません。こちらの事情でした」


オレの様子を横で見ていた店員が、苦笑しながら言った。
その何気なく言ったであろうことが引っ掛かる。


「その……営業担当が、なにか……?」


オレの質問に、大きな黒目をさらに大きくしてこっちを見る。
だけど、オレの真剣な顔に負けたのか、彼女は思い返すように、並んでるペンを眺めた。


「……いえ。本当つい最近のことだったので。偶然、今お客様がお探しになっていたペンを手にしていたのが、目に焼き付いていたもので……」


その『営業』って、まさか――――。


「すみません、万年筆を見せて欲しいんですけど」
「あ、はい。ただいま参ります。……申し訳ありません。ごゆっくりどうぞ」


核心を突く直前、他のお客さんが彼女を連れて行ってしまった。


……だけど、確信がある。
そんなふうに、このペンを手にしていた営業だなんて、ひとりしかいないだろ。

絶対。


色とりどりのダーマトグラフから顔を上げる。


なにしてるんだよ、オレは。
こんなふうに、本当に欲しくても手に入らないことが身近で起るんだから。

『あのとき、ああしてればよかった』だなんて後悔するくらいなら、思ったように動かなきゃウソだろ。


オレは手にしていたクリーム色のスケッチブックを、謝ってレジに返すと、急いで店をあとにした。



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