カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―

「お客様。こちら、先日お忘れに……」
「あ」


……しまった!

店員が手にしている、明るいブラウンの木軸のペンに見覚えがあって、今度は自分が「あ」と漏らしてしまう。
それを合図に、店員とその男が同時に私を見る。


「ああ、こちらのお客様が、このペンがカウンターに残っていたのを教えて下さったんですよ」


にこやかに私を手で示して、その男に紹介される。


いや……そんなことをわざわざ言わなくても……あれ?


不意に声を漏らしてしまったことで、ちょっと慌ててしまって気づかなかったけど……。

白いシャツを上に辿っていくと、どこかで見たことのある顔。
色白の腕と、明るい色合いの髪。


「あ、あなた……」


“KANAME”……!

今日、ロビーですれ違った“KANAME”だ。
まさか、あのペンの持ち主が彼だったなんて!

しかも、また余計なことを口走ってしまった。
「あなた」なんて、目を合わせて言ったら、『知ってます』って言ってるようなもんじゃない!


「すみません」


彼は店員の手のひらのペンを受け取り、頭を下げる。そして完全に固まってしまった私を見て、確かに小さく笑った。


ああ、最高に気まずい。
だけど、今このタイミングで席を立つわけには行かないし……。


焦点が定まらないまま、この場合の一番いい対処法を考えていると、“KANAME”はひとつ席を空けて隣に腰を下ろした。

未だに気まずい空気を感じる私は、彼を見ることが出来ないまま、ただカップで揺れるコーヒーを見つめるだけ。
それでも、彼の視線は私に向けられたままだというのがわかる。

いよいよその視線にも耐えられなくなった私が、勢いよく顔を上げて彼と向き合うと、 予想外の笑顔だった。


そして、彼はさらに予想外の言葉を口にする。







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