カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―
――いや。こいつならやりかねない。
こんな目立つやつが、会社で馴れ馴れしく話し掛けでもしてきたらこの上なく面倒だわ。
森尾さんの対処を想像するだけで疲れる。
あーもう! すでに今も面倒だけど! 神宮司さんに名刺なんてあげるんじゃなかったわ!
「わかったわよ! 早くして! そしてこれ、離して!」
観念して言った私を、自分が仕向けたくせにすごく嬉しそうな顔をして見る。
邪念を感じさせないから、余計にどう対応したらいいのかが難しいのよ、こういうタイプは。
きっと、二人きりになってなんかあるとか、そういうのは全く頭にない。
大抵の人はそれが当たり前だけど、その原因が31の自分にあるかもしれないと思うと複雑だ。
「怒った顔もイイね」
要はそう言って手を離すと、私を置いて、先に部屋に行ってしまった。
閉まりかけたドアを慌てて抑え、ひとまず玄関へと足を踏み入れる。
それから覚悟を決めて、ずっと履きっぱなしのパンプスから解放された足を、ひんやりとしたフローリングに着地させた。
「おじゃまします」と、一応小声で言いながら奥へと進む。
室内も、廊下と同じように壁がコンクリの打ちっぱなし。廊下と違うのは、窓の大きさの関係なのか、空気が冷やりとしてる。
「ここ……デザイナーズマンション?」
「まぁ、そういうみたいだね。仕事場のイメージにぴったりの部屋だったから、即決めたんだ」
間取り的には1DKといったところ。
少し縦長の部屋で、その奥には足元から天井までの窓。
そこから燦々と入る夕陽を受けながら、デスクに手をつけて立ちながらパソコンを操作している。
Lの字になったデスクの端には乱雑に散らばった白い紙。そこにはいくつか淡い色でなにかが描かれている。
なんのデザインだろう。インテリア? でもなんかこれ、広告のような――看板みたい。
私がデザインを見ていることにも気づいてない様子で、要はカチカチとマウスを動かしながら言う。