カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―


寝不足は、肌にテキメン表れる。
しかもまたこの暑い中、思い切り紫外線を浴びなきゃならないし。

それでも、まだ、今の私は仕事を捨てられない。


ひとつ目の取引先から移動するのに、車のエンジンをかけようとしたところ、携帯の着信音が響いた。
ハンドルから手を下ろし、ディスプレイを確認して応答する。


「はい、阿部です。いつもお世話になってます」
『もしもし? あー美雪ちゃん!元気かい?』
「お久しぶりです。元気ですよ。浜(はま)さんもお元気ですか?」


『浜さん』。

以前、私が担当していた取引先の店長だ。
50過ぎの浜さんは、サバサバとした私を娘のように、そして私は優しい浜さんをお父さんのように接するくらいに打ち解けた。

もちろん、仕事は仕事できちんとするけど、浜さんの雑談なんかをたまに聞いたりもしてた。

担当を離れることになったとき、私もさみしくは思ったけど、浜さんはそれ以上にさみしそうだった。


『元気元気!相変わらず近所の子供が来てくれるから、賑やかだし。ああ、美雪ちゃんのとこのあの新しいカラーペン! 女の子によく売れるよー』
「ほんとですか。それは良かったです! ところで、どうしたんですか? 私に電話なんて」


前担当の私の番号は知ってて当然なんだけど、それに今電話するって理由がわからなくて聞いた。


あ、まさか、前に話してたお見合い話だったりして。
やたらと「いい相手がいる」とか言ってたのを断るのが大変だったのよね……。


ちらりと車の時計を見ると、12時を回ったところ。

まぁ、ちょうどお昼だし、多少の長話は久しぶりに付き合ってあげようかな。

シートに背を預けて、携帯を持ち替えて反対の耳に押し当てたら、浜さんが困った声を出した。



< 39 / 206 >

この作品をシェア

pagetop