カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―

完全に私が悪者にされた――。


誰に嫌われても別に構わない。けど、あんな子にハメられた感が半端無く悔しい。

わなわなと自分の拳を握りしめていると、神宮司さんが私の肩にぽん、と手を置いた。
見上げると、彼は苦笑いして部署内を見まわした。そして首を傾げながら肩を上げ、すたすたと森尾さんのあとを追って行った。


パタン、と扉が閉まってから、残っていた女性パート社員二人がぽつりと漏らす。


「……部長がいないのをいいことに、あの子うまく逃げたわね」
「でも部長の代わりに、今の人が仲裁に入ってくれてよかったかも……」


その言葉にちらりと顔を向けると、瞬時に目を逸らされてしまった。


誰も森尾さんを追いかけないから、神宮司さんが追い掛けて行ったのはわかってる。
けど、なんだか私が間違ってて、存在価値がないように思えて仕方がない。


気まずい空気の中、カツッとヒールを鳴らして自席に戻る。

ギッと椅子に背を預けると、朝にはなかった資料がデスクに置かれていた。
そのピンとした白い用紙を手に取って、つらつらと書かれている文字に視線を落とす。


……廃番商品一覧、か。


アルファベットや数字の羅列。それを見て、大体の商品が頭に浮かぶ私は、やっぱりここで8年間頑張ってきたということだと思う。

全く同じようにやれ、とまでは言わない。

せめて、気付いてほしい。
たくさんある取引先かもしれないけど、そこには“人”が関わっている。その人との関係が大切だということを。

――なんて。そういうの、私もつい最近学んだんだった。

ていうことは、森尾さんは入社して2年目……あと5年くらい必要?


「はぁ……」


そのとき私はまだここにいるのだろうか。



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