ボクの中のキミへ
601号室には【広木柚】の名前があった。

個室だ。


中からは声一つしない。


(いいよ‥海君)


「待てよ‥俺も心の準備が‥」


急かす柚。

俺は扉をノックしようと拳を扉の前に持っていくが‥できない。


俺は臆病者だ。


(もー‥海君!頑張ってよ!)


ここは男として、柚にいい所を見せたい。

俺は思いきってノックした。



トン‥トントン‥



思いきった割には、手が震えて小刻みなノックになった。


「‥はい‥どうぞ?」


中から女の人の声がした。


(‥お母さん‥)


その声は柚のお母さんだった。
俺は扉を開けて中に入った。


「‥こんにちは」


緊張で声が小さくなる。


中に入ると、ベットはカーテンで囲まれていて中に寝ている柚は見えない。

そのカーテンの中に座る女の人が、立ち上がって出て来た。


「あら‥こんにちは‥えっと‥」


誰だか分からない俺に、柚のお母さんは戸惑っている。


柚のお母さんは痩せていた。
きっと柚の看病に疲れているのだ。


「あの‥俺、柚ちゃんの友達で‥」


柚との関係を何と説明すればいいのか分からない。
事前に決めておかなかった事を後悔した。
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