恋する季節 *- confession of love -*


「あの、美琴……?」
「ん?」
「ちょっとでいいから……その、抱き締めてもいい?」

まるで子供が何かをねだるような目で見つめられた美琴の顔が、一気に熱を持って赤く染まる。
それでもなんとかコクンと頷いた美琴が見上げると、大和は優しく微笑んでいて……美琴も照れながら微笑みを返す。

そして、大和の大きな身体の中にすっぽりと収まろうとした瞬間。
「あの……」としりもちをついていた男子が恐る恐る話しかけてきた。

「あの、黒……」
「空気読めよ。今どういう状況か見れば分かるだろ。俺と美琴の邪魔すんじゃねぇ」
「でも、ゾンビが……」
「つーかおまえ、さっきの許されたと思うなよ。俺と美琴が付き合ってんの知りながら美琴の事誘いやがって……。
抱きつくとかふざけんな。俺だってまださせてもらってねーってのに。
それに、馴れ馴れしく美琴の名前呼ぶんじゃね……ゾンビ?」

ゾンビという単語に、大和も美琴もここがお化け屋敷の中だということを思い出す。
そして、周りを見渡して、ようやく墓を掘り起こして出てきたゾンビが目の前まで来ている事に気づいた。
機械操作されているのだろうけれど、大和と美琴があまりにそれを長時間無視していたせいか、動きがおかしくなっている。

「きっと後ろがつかえちゃってるから早く出ないと! 大和、早く!」

大和の腕の中からスルリと抜け出した美琴が、大和の手を引いて走り出す。
またしても抱き締め未遂に終わった大和はガックリと肩を落としていたが……握られた手に、消沈しそうになっていた気力を取り戻した。

本当に単純な男である。


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