絶滅危惧種『ヒト』
電話を切った彰洋は、急いで氷を入れる物を探した。


「おい紀子! 何かないか!?」


基本的に台所の収納に疎いから、何がどこに仕舞われているのか、さっぱり分からなくて妻に助けを請う。



「何かって言われても、何がいるのよ?」



「だから氷を入れるものだってば、話しを聞いてなかったのか?」


彰洋が少し呆れたように言った。


「知らないわよ。氷って何に使うのよ」



「だから、南極の氷を溶けないようにして、東城医大病院まで持っていくんだってば」


「えっ、そうなの? 何で?」


「それがだなぁ……。何でも俺たちが死なないのは、南極の氷がワクチンの代わりをしているかららしい」


「へぇ〜そうなんだ」


「何だよ。感動の薄いヤツだな」


「感動がって……何に感動するのよ?」


「いや、もう良いよ」


「はい。これで良いでしょ?」


紀子は水筒を取り出して手渡す。

氷の塊のほうが少しだけ大きいので、小さく割らなければ水筒には入りそうにない。

あまり小さくすると、それだけ早く溶けてしまいそうだ。


「ある程度の大きさに割っても良いんだろうけど、この水筒って保温性は高いのか?」


彰洋は紀子に確認してみた。


「さぁ」


「さぁって……。じゃあ何か発泡スチロールの箱とかないの?」


この前孝明が持ってきたものは、そのまま聖人が持って帰ってしまっている。


「そんなの急に言われたって、あるわけないじゃない」


それに対して、紀子は不満そうに答えた。

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