絶滅危惧種『ヒト』
人類の一大事だというのに、妻の紀子はそれが分かっていないらしい。いつもの調子で不満顔である。


彰洋はアイスピックで氷を割ると、水筒に放り込んで固く蓋をした。


ここからバイクで20分程の距離である。


そんなに外気温度も高くないし、溶ける前に届けることは可能ではないだろうか?


彰洋はそう思って、そのまま水筒を持って出かけることにした。


「あっ、お父さん。私も行きたい」


すかさず栞が着いて行こうとする。


「いや、原付バイクは二人乗り禁止だから」


「え〜〜〜〜〜。じゃあ車で行こうよ」


もちろん栞が納得するわけがない。


「おいおい、渋滞でみんな車を乗り捨ててるんだぞ。車じゃ全然進まないよ」


彰洋は何とかなだめようとした。


「え〜〜〜〜」


「それにさぁ、オマエと二人で出かけたら、お母さんが一人ぼっちになっちゃうだろ」


「それはそうかもしれないけど」


「とにかくちょっと行って来るから、オマエはお母さんと留守番してろ」


彰洋は唇を尖らせる娘の頭をポンと叩くと、大急ぎで家を飛び出した。

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