絶滅危惧種『ヒト』
昼前に直樹のところに井上が顔を出した。


「いよぉ」


「おお、井上」


「恐れてたことが現実になっちゃったな」


井上は大きなため息を吐く。


「ああ、そうだな。やはり接触感染なのかな?」


「そうだな。他の南極観測隊員たちや、聖人とその彼女の家族に感染者が出ていないってことは、やはりエイズみたいに、粘膜部分や傷口からの感染経路が疑われるな」


「それだけが感染経路なら、かなり防ぐことは可能だけど……」


直樹は首を捻る。どうしても最悪を想像してしまうのだ。

やはり、あの日の父の台詞が、深層心理の奥底から消えてなくなっていないらしい。


「小林孝明と、藤田朋美の吐しゃ物を浴びた者がいるな……。もし浴びた場所に傷口があったり、口の中にそれが入っていたら、新たな感染者が出る可能性もある」


「そうなのか? エイズウイルスは、唾液なんかの体液では感染しないけど……」


「でも今回のケースは、患者が吐き出すのは、溶けた内臓の膿で、その中にウイルスが確認されている」


「確かに……じゃあすぐに隔離して検査したほうが良いんじゃないのか?」


「そうだな……」


「それと潜伏期間はやはり四日くらいか?」


「聖人に聞いたんだが、藤田朋美が小林孝明と性交渉をしたのは、小林孝明がここで亡くなった前日だそうだ」


「ってことは、木曜日だな」


「ああ、おそらく木曜日の夜で、今日が火曜日だから、四日から五日ってとこだな」


「そうか……じゃあ五日後までに何も起こらなければってことだな」


「そう願いたいね」


井上はまたため息を吐いた。

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