サンドリヨンは微笑まない

あたしはレスリング選手じゃないし、そんなすぐに折れたりしない。


「モデルだけど」


嗚呼、そう。

あたしはモデルだ。

ファッションショーのオーディションを何回落ちたとしても。

一回限りの華やかなデビューだったとしても。

こんな所でチョコレートの誘惑にかかっている場合じゃない。


「だからそんな寒そうな服着てるのか」

「ううん、これお気に入りのワンピースだから」

「季節考えろよ少しは。モデルさん」


呆れた声が聞こえる。

あたしは立ち上がって、彼の方を向く。


「チョコレート、ありがとう。気持ちは貰っときます」


今、自然に笑えた。こんな風にオーディションの時も笑えれば良かったなあ、なんて。
もう過去の話なんだから、気にしない。



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