*Pure love*

***

結局,乗り物には全然乗れなかった.

人気アトラクションは一時間待ちなんて普通だから,人がすぐに捌ける余りポピュラーではないものにたくさん乗る.それはそれで楽しかった.

「次,海底二万マイル乗らない?」

「いいねー」

「場所何処だっけ?」

 マップを広げてみて,今いるのは…どこ?海底二万マイルってどこ?

「佐藤,向きがメチャクチャ.佐藤ってまさかの方向音痴?」

「今ここだから…こことおっていくのが速いんじゃね?」

 じゃあそうしよう,みんなすぐに賛同してぞろぞろ向かう.
私は後ろからついていった.

 でも何しろ人が多いので,歩くのが少し遅い私はついていくのに一杯一杯.

 ふと気がつくと,花香達が随分先に行っているのが見えた.

「待ってよー」

 その時.前方に集中していた私の足が何かに引っ掛かった.

「えっ?」

 スローモーションのように周りが流れて行って,それで.

 力強く腕を掴まれた.

「危ないよ,佐藤さん」

 片手で私の体を立て直すと,腕をひいてさっさとみんなのいる方に歩いていく.力強いまま引かれていって,自然に離された.

 顔を窺って,「あ,ありがとう」とお礼を言うと,

「怪我なくてよかった.気を付けて」

屈託なく微笑む.

 その笑顔に…胸が小さく反応した.えっ?

「杏樹,何やってるの?行くよー」

 また置いていかれそうになったので,足元に気を付けながら走って追いかけた.

 ***

 一日中遊びまわって,だんだんと夕日のオレンジ色が薄くなってきていた.

「今日は楽しかったね!もうちょっと遊びたかったな….あっ,織本君と佐藤君,また学校で会おうねー」

 花香がやや名残惜しそうに二人に挨拶して,三人で電車に乗り込む.

「楽しかった―.また行きたーい」

「本当だよね…」

「それより宿題終わったの?」

「何で!?郁馬まで言う!?二人して私をなんだと思っているのよ!」

「三人の中で課題出すのが一番遅い人」

「確かに…」

「うわっ!否定できないのがムカつくー.もう!せっかくの楽しかった気分が台無し」

「そうだね…」

 花香達の会話に相槌を打ちながら,私はどこか上の空だった.


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