【短編】僕と勇者さん
――その好きが、likeじゃなくloveだったらいいのに。
そう思うようになったのは、つい最近のことだろうと思う。もしくは、今まではそれを認めてなかっただけか。
いや、今も認めたくはない。自分は女"っぽい"だけで、女ではないのだから。そんな感情を彼に抱くことは間違っている。しかし、この思いは止まらない。どころか増え続けるばかりだ。
今こうしている間にも、彼にもっと触れたいという欲は留まることを知らない。触れたい、隣にいたい、隣に寝たいとか、それ以上だって……。
「僕は、バカだな。」
頭を振って思考を停止させる。思わず自虐的に笑ってしまった。最近、こんな思考ばかりが頭を埋める。本当に下らない。最低だ。ケイのことをこんな風に考えてしまうなんて。
「好きすぎて、なんてね。なんの言い訳にも使えやしない。」
立ち上がり、自分のベッドへ戻った。すぐに眠れるところは、ケイと同じかもしれない。

 *

「……え?」
朝が来た。手に違和感がある。よく見れば、ベッドのすぐ隣にケイがいた。手にあった違和感は、ケイの手。
「……は?」
状況が理解出来ない。寝る前までは確かに、ケイはケイのとこに寝てたはずなのに。
「いや本当に……なんだこれ。」
ついに狂い狂って、僕はこんなことをしてしまったのか。あぁもう駄目だ。今さらだけど、やっぱり2人で旅なんて無理だ。誰か僕の暴走を止められるような人をパーティに入れないと。ケイが、色々な意味で死んでしまう。それも僕の手で。なんて不名誉なんだよ。警備隊さん、僕です。もういっそのこと自首すればいいんじゃなかろうか。まだ何もしていな……今日のは未遂だな。しかも無意識ときだ。無意識でこれなら、警備隊さんも逮捕してくれそうだな。よし、いってこ
「ん……あ、ユリア。おはよ。」
そこまで考えて、何も分かっていないであろう能天気な声が聞こえてきた。純粋すぎて、僕という存在がとても申し訳なく思えてしまう。あっと、手に気付いたのかごめんごめんと手を離される。少し名残惜しいとか思ってしまう僕はやはり、犯罪者予備軍か、そうか。
「ちょっと、怖い夢みたから、ユリアのとこに来たんだ。」
「あ、そうだったの。」
うん、頷いたケイに見せている表情は無表情だが、心のなかでは凄く歪んでいる。犯罪未遂などを起こしていないことに、安心とか色々入り交じった表情だ。
「ちなみに、どんな夢?」
聞いてから後悔した。凄く悲しそうな、悔しそうな。そんな表情を見せるくらい怖い夢を思い出させてしまったことに。
「あ、ごめん。別に言わなくても……。」
「俺が、ユリアを守りきれない夢だった。」
うつ向いたまま、ケイはそう言った。言葉が震えている。
「魔物が、強すぎて、俺の力じゃ倒せなくて。回復とかしてたら、ユリアの魔力が尽きて倒れちゃって……そこで夢は終わったんだけどさ。」
なるほど、そこから先は想像出来る。魔物の前で、魔力の尽きた魔術師の末路。それはもはや、死くらいしか待っていない。
「それが妙にリアルで、正夢になるんじゃないかって考えたら、1人のベッドが怖くなって……。」
手で拳を作り、悔しそうに力いっぱい握りしめる。
「ケイ、やめろ。お前の力じゃ血が出る。」
「ユリアの痛みに比べたらこのくらいどうってことない!」
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