【短編】僕と勇者さん
だろ?と誇るケイが、たまらなくバカに見える。
腰に回されていた手が離されたから、僕はそっぽを向いた。
「……バカ。」
「そんな可愛い顔で言っても効果ないぜ?」
何故だ。何故僕がこんなことになるんだ。そもそも、彼の方が可愛かったはずだ。いや、今ももちろん可愛いけど。
なんで僕が、女みたいにならなくっちゃいけないんだ……。
「ユリア、女みたいに可愛いからさ、守りたくなるんだよ。」
そんなこと言うな。僕の前へきて、僕の顔をお前の真正面にして固定させるな。
「それに俺は、ユリアだからパーティ組むんだよ。それ以外興味ない。」
まっすぐに僕を、そんな目で見つめるな。そらしても追いかけてくるのをやめろ。
「だからさ、昨日好きだっつってくれて嬉しかった。」
「……起きてたの。」
頷けば、再び僕の手に腰を回した。抵抗するのも馬鹿馬鹿しく思えてくる。
「結構前から、俺が先に寝たふりしたときは好きだって呟いてたよ?」
「寝たふりばっかしてたの。最低。」
「ごめんごめん。」
謝っているうちに入らないくらい軽いごめん。それよりも、好きだと言っていた僕に驚いた。そんなにポロリと出ていたのだろうか。不用心にも程がある。
「俺も、お前が好きで良かったな。」
「……それは思う。」
ケイが普通の人だったら、気持ち悪がられていただろう。その点だけは思ってしまった。
「まぁ、もう悲しいこと言うなよ。俺が裏切らないこと、お前ならよく分かってるだろ?ユリア?」
耳元で名前を囁かれ、僕はゾワリとした。本当にケイがSだったことに。
これはもう絶対になんらかをやらかす。今日、というか今すぐにでもなんらかを僕にやらかすぞ。
「好きだなんて、言い訳にもならない。でも、理由には出来る、よな?」
意味が分からない。抱き締める力が強くなった。

確かに僕は、ケイのことが好きだ。こんなケイのことも、受け入れられそうなくらい、ケイのことが好きらしい。
しかし、まさか、僕がケイに……。

――警備隊さん、こいつです。どうにかして下さい……。

[fin]
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