おかしな二人


「いかがですか?」

微笑を水上さんに向け、店員さが訊ねる。

あたしは水上さんのほうへ体を向け、顎を上げてニットの首元を下に引っ張り、マネキンという役割に徹底した。

要するに、顔やら貧乏ニットやらの余計な物を視界に入れないよう、首元だけを見てもらおうとしたのだ。

「そないに顎上げんでもいいやん」
「で、でも……。あたしの顔なんて邪魔なだけだし」
「邪魔って……。それに、そないに引っ張ったら、服伸びるで」

呆れた顔で指摘されても、あたしは、“でも”という言葉を繰り返すだけ。

水上さんは、腕を組み、う~ん、と一つ唸る。

そりゃあ、必死に考えますよね。
だって、これから付き合おうって人でしょ?

付き合う前のプレゼントにしては、ちょっと高価すぎるんじゃないかとあたし的には思いますが、まぁ、芸能界の金銭感覚は、こんなものかもしれないですしね。

それに、言葉は悪いですが物で釣るっていうのも有りですよ。
最初が肝心、なんてよく言うし。

こんなすんごいの貰っちゃったら、付き合わなきゃまずいってな感じですよ。
ある意味、脅迫ですよね。
オイオイ。

水上さんの強面には、ぴったりのやり方じゃないですか。
コラコラ。

釣ったもんがちですよ。
言うよねぇ~。

少し前に焼き鳥屋の女将が言っていた、お笑いのセリフを使ってみたりして。

あ、あの人はお笑いじゃないのかな?
まぁ、どっちでも似たようなもんでしょ。


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