その一枚が恋だと気付くのに、どれほどの時間が必要だろう
「コンコン」


部室のドアをノックする音を自分の口から出し、はにかんだような笑顔で白い歯を見せた。


「どうぞ」


僕もそれに対して、わざとらしく返事をし、前に置いてある椅子を差し出した。



お互いが弁当を取り出し、昼食を取りながら様々なことを話し合った。

文化祭一週間前に復帰したということもあり、さすがに出番と台詞は多くはないが、それでも舞台に立てるということ、それに向けて稽古に励めることを嬉しそうに彼女は話してくれた。

「台詞が少なくてもしっかりと稽古して、その役と見てくれる人たちに失礼が無いようにしたい」その言葉が如何にも彼女らしくて、とても微笑ましかった。


「俺も見てくれる人に最高の一枚を撮らないとな」


彼女が稽古に復帰してから、僕の放課後はひたすら文化祭に出展する写真を撮る時間に費やしていた。


「うん。

和中君の写真、楽しみにしているね」


その言葉と表情で、また嬉しさが増した。
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