ボレロ - 第三楽章 -
同じ名を持つ会社であるため単なる掲載ミスだろうと思われたが、ミスはそれ
だけでなく、ご丁寧にも本社の所在地まで 「SUDO」 のものになっていた。
これでは 「スドウ」 が 「SUDO」 だと、受け取られかねない。
とはいえ、週刊誌の読者のどれほどが企業の本社を認識しているだろう。
記事を読んだとしても、間違いに気づく読者はごくわずかだと思われるが、そ
のごくわずかの読者こそ業界に通じている人だともいえる。
業界に通じている彼らに誤解されては非常に困る。
だが 「記事に誤りがある 訂正を……」 と、雑誌社に抗議するわけにはい
かないのが辛いところだ。
記事の訂正を求めるという事は 「スドウ」 のほかの二社については
「その通りです。間違いありません」 と認めたことになる。
細かい事を言えば、私を中心に進められていると書かれているのも誤りだ。
私も関わってはいるが、中心にいるわけではない。
なぜ私の名前をわざわざ記したのか……
創業者の苗字を冠した社名と、それを継ぐ私の名前、同じ名の連呼は人の記憶
に留まりやすい。
その効果を狙ったのものなのか。
数年前の社名変更時 「近衛」 の名を省き、他の名へ変更をと提案したの
だが、古くからの役員に反対され 「近衛」 の名前が残ったいきさつが
ある。
あのとき強硬に反対しておけばよかった。
厄介な事になったと頭を抱えたが、それよりも厄介であるのが写真週刊誌だ。
見出しの文字を見ただけで、怒りで体が震えてくる。
『あの近衛宗一郎氏 熱愛三様』 とあり、写真下には、品性のかけらもない
コメントが記されていた。
名前の前に 『あの』 とついたのは、私が異臭事件でマスコミに名前と顔を
知られてしまったからにほかならない。
三枚の写真は、私と彼女たちの斜め後ろから撮られたものであり、女性の顔に
はぼかしが入っていたが、私の顔はどれもハッキリとわかるアングルだった。
撮影角度の妙なのだろう、いかにも親密そうに寄り添っている。
一枚目の女性は柘植さんだった。
アンティークミニチュア家具を譲ってもらった夜、礼をかねて食事に招待した
のだが、そのとき盗撮されたようだ。
写真では、柘植さんの腰に私が手を回しているように見えるが実際はそうでは
なく、小さな段差につまづいた柘植さんを支えただけだ。
「熟女との密会 10数歳の年の差愛発覚か」 のコメントに怒りがます。
お世話になった柘植さんを巻き込んでしまい、申し訳ない思いでいっぱい
だった。
二枚目の女性は小宮山雅さんだった。
彼女は化粧品会社の会長を祖父に持つ、良家のお嬢さんだ。
「深窓の美人令嬢」 とコメントにあるが、大会社の経営者の娘なら、誰でも
深窓の令嬢と書き立てるのは、マスコミのバカの一つ覚えだ。
彼女は静夏のもっとも親しい友人で、私も彼女を幼い頃から知っているため、
会えば 「雅ちゃん」 と呼び 妹のように接しているが、その親しさが写真
では 「親密」 となっていた。
現在の静夏の様子を知るただひとりの友人で、先月わざわざ静夏に会うために
渡欧し、その報告をしてくれたときのものだ。
雅ちゃんと親密交際とは、まったくもって彼女に失礼だ。
婚約が決まったばかりの彼女には大迷惑だろう。