ボレロ - 第三楽章 -


ベアトップに仕立てられたドレスにボレロを羽織る。

肩を見せた方が綺麗なのに……という女性陣の意見に異を唱えたのは宗だった。

「デザインは任せる。俺が口を挟むことじゃない」 と言っておきながら、いざデザインが示されると、



「肩と背中が見えるのはどうも……」 



と、言葉は控えめながら声の調子が嫌がっていた。

口を挟まないと言ったじゃないと宗に反論した静夏ちゃんに 「嫌なものは嫌だ」 といい、母や近衛の義母から 「宗さん、珠貴さんを他の方に見せたくないのね」 と笑われながらも、私の顔をじっと見つめ 「認めない」 とばかりに視線を送ってきた。

デザイナーの斎賀先生から 「レースのボレロでしたら、肩のラインも綺麗ですよ」 と提案され、それなら……と宗が承知したドレスだった。

ボディにはリバーレースがふんだんに使われ、優美な表情を見せている。

裾はかなりの長さで、手繰り寄せたレースは幾重にも折り重なり華麗なドレープができていた。 

宗の腕に手を添えて歩く姿はいまだに想像できず、鏡の中の自分が、まるで画面の向こうの人物のようで、私はふわふわと落ち着かない時を過ごしていた。


仕度が終わると家族や友人たちが次々にやってきた。

あらたまった場であるためか誰もが控えめな対応なのに、結歌だけはいつもと変わりなく、私のドレスを手に取ったり触ったりと、気のおけない友人は遠慮がない。

特に彼女の興味を引いたのは、ドレスから続くトレーン(裾)だった。



「女性にとって長いトレーンは憧れね」


「メインホールに階段があるの。

デザイナーの先生が、階段を降りるのなら、長い引き裾が映えますねとおっしゃるものだから」


「ウェディンググローブとベールだけのお衣装のはずだったのに、ずいぶん豪華になったわね」


「それを言わないでよ……」


「ふふん、そうはいかないわ、いつまでも言わせらもらうわよ。 

だって、質素でいいの、なんて言いながらこうなっちゃうのよ。

それはね、運命がそうさせるの、珠貴が強運だからよ。

コダマキョウコ先生の言葉、覚えてるでしょう? 難を運に転じる力があるって、そうなったじゃない。

私にも幸せを分けてちょうだい」



結歌はそういうと私をギュッと抱きしめた。



「珠貴、幸せになるのよ」 



彼女の声に胸が詰まり、声にならない声で 「うん」 とうなずいた。

結歌にも幸せになって欲しい。

彼女を愛する人が、きっとどこかにいるはずだから……

湿った声を隠すように、気持ちを奮い立たせて声をだした。



「宗の伝言があるの ”結歌さんのために、有望な男性をそろえました” ですって。

近衛の社員だけでなく、彼のお友達や取引先の方も大勢いらっしゃるのよ」


「わぁ、宗さん、約束を覚えててくれたのね。うーん、嬉しい!

張り切って探すわよ。みんなにも言っておかなくちゃ」


「結歌さん、頑張って。披露宴でカップリングしたおふたりには、特典があるそうですよ」



ノックのお返事がなかったので勝手にお邪魔しましたと断ってから 「楽しそうな企画ですね。私も参加したかったわ」 と言う紫子さんの顔は本当に羨ましそうだ。



「あら、紫子さん、聞いてらしたの? 

あはっ、張り切るなんて言っちゃった。恥ずかしい」



頬に手を添えて可愛いポーズをした結歌へ、思わぬところから声がかけられた。 



「全部聞こえてますよ。廊下まで筒抜けです。結歌さんの声、相変わらずデカイなぁ」


「ちょっと失礼ね、って、あなた、どなた?」



紫子さんの後ろから、若い男性がチラッと横顔をのぞかせていた。

お会いしたことがあるけれど……と思い出すうちに大人の顔に幼顔が重なった。

結歌も思い出したようだ。



「あっ、きょうごくこたろう!」


「フルネームで呼ばないでくださいよ、って、まだ呼び捨てにするかな」


「いいじゃない、虎太郎は虎太郎なんだから。それにしても大きくなったわね」


「えぇ、大きくなりました。もう結歌さんより小さいとかって言わせませんよ」


「ホント、育ったわね」



結歌の返事に呆れた顔を見せていたが、私を向くと 「お久しぶりです」 と形良くお辞儀をした。



「姉が船の中で迷子になりそうだと言うので、付き添ってきました。

珠貴さん、おめでとうございます」 



立派な青年に成長した姿が頼もしい彼は、紫子さんの弟さんの虎太郎さん。  

私と結歌の一年後輩である紫子さんとのお付き合いも長い。


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