ボレロ - 第三楽章 -


選ばれた者だけが足を運ぶ 『シャンタン』 で食事をすることこそが大事なのだと、見当違いの満足感に浸る客がいるのも確かだ。

もっとも、そのような客ばかりではなく、大半は 『シャンタン』 の雰囲気とともに食事を楽しみ、極上の時間を持つ意味を知っている。

その意味を知る ”本物の客たち” が、私の連れである須藤珠貴に、少なからず注目していた。

私が同伴している女性というのもあるだろうが、彼女の立ち居振る舞いを目の端に入れているのは明らかで、何気なく送られてくる厳しい視線は、珠貴の

一挙一動をとらえると、感心したまなざしに変わっていく。

珠貴が羽田さんに告げる素直な言葉もまた、彼らに好印象を与えている。

『シャンタン』 にくるたびに、珠貴の評価が上がっていくのを感じていた。 

背筋を伸ばした佇まい、意思の強そうな目と口元、時々見せる無邪気な顔、そのどれもが、私を惹きつけてやまない彼女の魅力だが、第三者の評価が良い

というのは、私をもっと嬉しがらせる一因になっていた。

須藤珠貴という人物は、人を惹きつける要素を兼ね備えている。

『シャンタン』 の人々だけではなく、私の家族も好意的に珠貴を受け入れた。

友人たちも、みな口をそろえて ”気になる女性” だと言う。

パートナーとして選んだ女性を褒められるほど、気持ちのいいものはないが、では私はどうなのだと自問自答したくなる。

珠貴に近い人々は、私に親しみを持ってくれているが、彼女の母親の目にはどう映ったのか。

堂々と振舞ったつもりではいるが、それが不遜な態度に見えはしなかったか、嫌味に受け取られたのではないかと、いまになって気になるのだ。

自信のなさは形となってあらわれる。

食事だけでは心もとなく、贈り物まで用意したのだから……


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