蜜事は研究室で
"日下部 帝"という人
校舎の1階の隅の、さらに隅の方。

そんな場所に、この“研究室”はある。



「おいで、シーナ」



漫画でいえばキラキラ光る背景をしょっているような極上の笑顔を浮かべながら、その男は言った。

理知的で端整な美貌の持ち主が両手を広げるその姿に、思わず胸へと飛び込みたくなる女子は少なくないだろう。


……だがしかし。



「嫌です」



対するわたしは赤いプラスチックフレームのメガネを押し上げ、不信感に満ちた視線でその笑顔を一蹴した。

それから目にも止まらぬ早さで部屋の出入口へとダッシュを試みたわたしの目の前に、ちょこんとかわいらしい犬型ロボットが立ちふさがる。



「くっ……」

「ふっ、番犬ロボット『SHIBA2号』の実力はきみもわかっているだろう? さあ、おとなしくこちらに来なさい」



勝ち誇ったようなニヒルな笑みをみせながら、白衣に黒髪銀縁メガネの男は腕を組んだ。

一見プリティでも、主人の命令とあれば恐ろしいスピードで獲物に噛みついてくるそのワンコロボットのえげつなさは知っているので、わたしはギリギリ歯噛みしながら、その男を振り返る。
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