蜜事は研究室で
「シーナ」



大好きな声が、自分を呼んでいるような気がして。

ふ、とわたしは、重いまぶたを押し開けた。



「シーナ。気分はどう?」

「しつ、ちょぉ……?」

「まったく、本当にきみはツメが甘いな。いくら生徒玄関で見たという嘘をつかせても、下駄箱に残った靴を隠さなきゃ意味がないだろう」



というか、この俺を嵌めるなんて。あの男、どうにかしてやらないと気がすまないな。

何やらブツブツとシツチョーが言っているけれど、今のわたしは頭がぼんやりしていて、その意味をはかることができない。



「えっと、わたし……」



すぐ真上に、シツチョーの顔がある。

わたしはゆるゆると、そのままの状態で辺りを見回した。

……この部屋は、いつもの研究室。そしてここは、ベッドの上。

で、今現在わたしに跨がっている人は──。



「……はっ?! ななな何やってんですかシツチョー?!」

「まだ何もしてない。これからするつもりだ」

「わーっ!!」



いつもの無表情でとんでもないことを言うシツチョーに、ボッと顔が熱くなる。

ていうかよく見たら、ヘアゴム! ブレザー! リボン! どこ行った?!



「ああああのあのあの、シツチョーこれは一体……っ」

「ん? ああ、あの惚れ薬はいわば試作品だからな。効果は数時間しかもたない」



つーっと、シツチョーの指先がわたしの頬に触れる。

そしてそのまま首筋をたどって、プツリと、ブラウスのボタンをひとつ外した。



「だからきみが俺のことをすきな間に、既成事実を作っておこうと思って」
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