蜜事は研究室で
《昔……幼稚園くらいの頃かな。テレビの特集で、世界の中の貧しい国で必死に生きる人たちのドキュメンタリーを観たんだ》

《………》

《そのなかでは、子どもをとりまく環境についても触れていてね。当時の自分と同じくらいの歳の子も、学校にも行かず……あまり綺麗とはいえない服を着て、働いてた》



黙って話を聞くわたしの視線の先で、シツチョーは静かに目を伏せる。



《なんていうかもう、はっきり言ってショックでさ。自分はなんて恵まれてるんだろう、こんな自分でも何ができるだろうって、考えて》

《………》

《で、ロボット含めた、おもちゃの開発。そういう国の子どもたちはもちろんだけど、世界中の人たちが笑顔になれるようなものを作れたら、と思ってね》

《……壮大な夢ですね》

《ははっ、まぁね。……でも、》



夢は大きい方が、いいだろう?


そう言って、それこそまるで小さい子どもみたいに笑う、シツチョーの笑顔に。

……ああ、そうだ、このときだ。

わたしの心は、あっさり持っていかれたんだ──。
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