蜜事は研究室で
「……おい」



上からかけられた若干不機嫌そうな声に、ハッとする。

つい無遠慮に顔やら格好やら見てしまっていたらしく、今やその顔は訝しげなものへと変わっていた。

わたしはとっさに、ペコリと頭を下げる。



「あ、すみません。えっとわたし、あの、」

「──ああ、もしかして助手希望者か?」



は、と思わず声がもれた。

目の前の人物は、まるでそんなわたしの姿なんて見えていない様子で、話し続ける。



「そうだな、やはり優秀な研究者には、助手がつきものだしな。ここらでひとりくらい採用しておくか」

「え、……あの、」

「ああ、別に履歴書とかはいらないよ。見たところきみはそんなに馬鹿でもなさそうだ。助手の仕事もわけなくやれるだろう」

「ちょっと、スミマセン」



時折わたしが言葉を挟むのにもかかわらず、この男はベラベラとひとりでしゃべり続けている。

……なんてことだ。こんなに人の言うことを聞かない人間に出会ったのは生まれて初めてだ。

わたしは人生16年目にしてぶち当たったカルチャーショックに、それ以上の言葉も出せないでいた。
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