スケッチブック
彼の見ているもの
「出来たっ!! 貴方の方はどんな具合?」
「あ……っと、うん。大体出来上がったかな?」
「ところで、誰にジャッジしてもらうの?」
「うーん、そうだなぁ……。あ、今姪っ子が来てるから姪っ子に見てもらおう。子供の純粋な目で見てもらった方が確かだよ」
「そうね、そうしましょう。──っと、その前に貴方の見せて?」

 彼女が彼の後ろに回りこむと、彼は慌ててスケッチブックを自分の胸に押し付けた。

「だ、ダメダメ! 見せらんないよ!」
「何でよ!? 少し位いいじゃない!」

 しばらくそんな押し問答をしていたが最後には観念したのか、彼は渋々自分の描いた絵を見せる事に同意した。
 先に見せてもらった彼女の絵は素晴らしく、流石にあれだけの事を言っただけの事はある。

(色んな意味で、これはヤバイな)

 恐る恐る彼は自分のスケッチブックを彼女に差し出すと、照れくさそうに上目遣いで彼女の表情の変化を伺った。

「……。」

 彼女は無言で彼の描いた絵を見つめている。
 心なしか、ほんの少し口元が緩んでいるようにも見えた。

 彼の描いた絵は、果物を真剣な眼差しで見つめながらスケッチブックにペンを走らせている、彼女の姿だった。
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