流れ星になったクドリャフカ〜宇宙で死んだ小犬の実話〜

┣遠くの街へ

 列車の中で耳にする会話も、スプートニク2号に関する物ばかりだった。

 ある人は宇宙に進出する技術があることを喜び、ある人はクドリャフカの行く末を心配していた。

 新聞は今日もクドリャフカの無事を伝えている。

 世界各国の新聞がクドリャフカを扱い、無事に回収されるかという論議をうろんなニュース源をもとに繰り広げていた。

 愛犬家はいきり立ち、報道に一喜一憂しているらしい。

 既に発表されていた飛行実験と同様に、パラシュートで回収されるものと考えている人間も少なくない。

 けれど、それも無理だ。

 クドリャフカに渡されたのは、片道切符。

 高度100キロの弾道飛行からの回収。

 地球周回軌道からの帰還。

 その二つがまったく別ものであるということを、一般人が理解出来るわけがない。

 関係者だった僕だって、未だによくわかっていないのだから。

 ああ、でも、そうか。

 例え地球周回軌道からの帰還が可能だったとしても、クドリャフカはもう死んでいるのだから無意味か。

 それとも、帰還できるだけの技術があったのなら、あんなことにもならなかったのだろうか。

 故郷までの長旅で疲れた体を動かす気にはなれず、頭ばかりが動いていた。

 硬い座席に体を埋めながら、考えるのはクドリャフカのことばかり。

 クドリャフカの死、ばかり……
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