deep forest -深い森-
蓮實
どうしたものかな…

蓮實は壁際を陣取り、愛しい梨乃を探していた。
やはり深山咲に梨乃を、1人で向かわせたのは失敗だったか。

今日一番輝いている筈の、姉上より美しい、梨乃の姿が見当たらない。


大方、志乃にイヤミでも言われて泣いているのだろうが、どこに雲隠れしてしまったのやら。

この屋敷で遊んだ梨乃の事だ。
私に解らない秘密の場所があるに違いない。

下手に探し回れば、行き違いになる。

やはり、壁の花になっているのが賢明なようだ。
蓮實は葉巻をポケットから取り出すと、火をつけて、ゆっくりとうまそうに吸い込んだ。



五年程前まで蓮實は、深山咲家の書生として雇われていた。

私大時代に知性と温厚な性格を買われた。
梨乃の父親である、深山咲公爵からの信頼も厚かった。

その、蓮實が。

今では公爵の可愛がっていた梨乃を、娼婦として育て、貶めている。

だが。



違う。


私は梨乃の事を、愛している。

蓮實は幸せそうに笑っている志乃と、その母親沙織を見て、ふう…と、苦々し気に葉巻の煙を吐き出した。

すぐ近くにあるサイドテーブルの灰皿に、吸っていた葉巻を押しつけて消してしまう。
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