deep forest -深い森-
園生 2
「オヤジ!オヤジはいるか!?」


深見には横浜某所に五万坪の敷地がある。

深見邸は、その敷地の東寄り…「伽羅」の建つ鎌倉の常緑樹の森と違い、ミズ楢や楢ガシワなどの落葉樹の森の中に建っていた。


園生は広い庭に車が止まるのを待ちきれずに、途中でドアを開け庭に飛び出した。


「園生さま!また、そのような!お怪我でもされたらどうなさるのですか!」


乳母でもある、女中頭の栄ゑーさかえーが、珍しく着物の裾を上げて、小走りで園生に近付いてきた。


「栄ゑ!そんなに急ぐと早死にするぞ?」


ケラケラと笑いながら園生。
栄ゑにコートを預けながら、扉の開かれた家の中に入る。


深山咲家の別館の社交場に比べ、若干こじんまりとはしているが、当時の日本では珍しい洋風建築の館だ。


「園生さまのヤンチャの方がよっぽど栄ゑの心臓には悪うございますよ。まったく園生さまときたら!毎日栄ゑの肝を冷やして下さる!」


「はは!ハタチを過ぎてヤンチャがあるか!武生と間違えるな」


「武生さまは栄ゑが困るような事はなさいません。そりゃあ物静かで穏やかでいらっしゃいますから」
< 28 / 49 >

この作品をシェア

pagetop