deep forest -深い森-

サロンの重い扉を開くと、部屋の中は濃密な花の香りが渦巻いていた。


高い天井にかかる程の飾り窓は嵌め込みになっており、園生は小さく舌打ちをすると、テラスへ抜けるガラス扉を開け放ち、忌々しそうに。


「香水香か……成程、西洋の華やかな香りも纏う者が代われば品がなくなるものだな」


と、言って、半裸で長椅子に横たわる実父、涼と、涼に絡み付いている女に視線を向け、わざとらしく溜息をついた。


香りこそ違えど、つい頭に浮かんだのは先刻組み敷きそこねた、あの女。




「……深見の大事な跡取り様のオカエリか。深山咲の姫は大層美しく官能的であったのだろうね。はは、良き日かな」


涼はそう言うと、着物の乱れも直すことなく、園生に向かって葡萄酒の入ったグラスをかかげ、無邪気にも見える笑顔を見せた。


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